リクエスト小説 茶羽根荘のゴミ虫な彼氏

茶羽根荘のゴミ虫な彼氏


アケミは変わり果てた彼氏の姿を前に言葉を失った。
ぐねぐねもぞもぞと蠢く肢体。
ぬらぬらと光る肌。
嫌悪感に満ち満ちたソレは既に人ではなく、虫のソレであった。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
アケミは遠くなる意識の中でつぶやいた。



アケミの彼氏が上京したのは、丁度1年前の事だった。
専門学校で出会った2人であったが、地元で事務の仕事に就いたアケミとは対照的に、彼氏はどこにも就職の口が無く、最終的にかねてからの夢であった役者を目指し1人東京へと向かったのだ。
遠い地で孤独に頑張る彼氏へ、アケミはせっせと毎月の生活費を振り込むのを忘れなかった。
毎日の電話。小さな機械の向こう側で、彼氏はその日あった出来事を熱く語り、アケミはとても眩しい笑顔でそれを聞いた。
そんな幸せな日々であったが、やがて電話の回数は少なくなり、メールも途切れがちになり、そしてついに昨日「お客様のご都合によりお繋ぎできません」という簡素なアナウンスがスピーカーから流れた。

たまらずアケミは新宿行きの夜行バスに飛び乗ったのだ。

夢を叶えるまでは会わない。
そう固く誓ったはずであった。
彼氏の事は信じたい。

しかし1年と言う時間と、東京と言う場所は人を変えてしまうのには十分な環境だ。

窓の外の暗闇を見つめながら、以前読んだ漫画のモノローグをアケミは思い出していた。

「今日は××という劇団のワークショップに参加した」

「今日、○○というTVでも活躍している俳優に会った」

「次の公演でちょっとした役が貰えそうだ」


彼氏からのメールを読み返す。
そうだ、この頃はまだ情熱に満ちた言葉が踊っていた。
だが割り当てられたチケット販売のノルマをこなせず、自腹を切った挙句に借金を背負いかけた頃から彼氏は変わり始めたのではないだろうか。

「家賃が高いから少し離れた所に引っ越す」

「ボロいアパートだけど、何か地元に似てて落ち着く」

「アパートの人達が凄い親切にしてくれる」

「すげー懐かしいアニメを皆で一気に観た」

「俺が生まれる前のファミコンとかマジ面白い」

「親の脛は髄まで齧れ!」

「マジ名言!」

「最近、声優にも興味出てきた」

「オタクがキモいというお前の幻想を壊してやんよ」

「この不自由な現実<リアル>と戦う事が唯一の存在証明<リアリティ>だって思うんだ」



後半はもはや妄言に近い。
それでもアケミは増額した仕送りを続け、実家の母親と大分口論になった。
そうだ、自分は仕送りを増やしたはずだ。
それだけの額があれば、今までと同じだけの暮らしができると思うのだが、もちろんそんな事は口には出さない。
きっと東京では田舎暮らしでは想像もつかないような出費があるのだろう。
そう、例えば、女性に貢いでいる、なんて事もあるかもしれないのだ。

「最高だよ茶羽根荘は」

彼氏のメールを頼りに辿り着いたそこは、新宿から更に電車で1時間はかかるような場所だった。
東京都と聞くと、どこもかしこも観光地というイメージだったが、アケミの目の前に広がる光景は、まさしく地元臭。
ギリギリ自動改札っぽい機械があるホームを抜け、シャッター街と化した商店街風の通りを抜ける。
今日行くことは彼氏には伝えていない。
突然行って全てを確認するだけだ。
夢叶うまで会わないという約束もあるが、携帯の件を伝えれば正当な言い訳として納得してもらえるだろう。
もしも女の影があれば、それで自分は身を引くつもりだ。
そのつもりだが…。

駅から歩く事15分。
田んぼと畑に囲まれた土地に、『茶羽根荘』と明朝体でプリントされた紙が貼られた門柱。
建物はまさしく古き良き木造アパート。昭和だ。
むしろお洒落、と心の中でアケミは呟いた。本心でだ。

集合玄関は薄暗く、蒸し暑かった。
本来ならばこの土間で靴を脱がなければいけないのだろうが、既に無法地帯と化しているらしく、明らかに靴の跡が建屋内に点々と続いてる。
管理人室とおぼしき玄関脇の小部屋にも人影はない。
アケミは心の中で「アメリカンナイズされててむしろお洒落」と思いながら最初の一歩を踏み出した。

ギシ
ギシ
ギシ


木造の床はアケミの豊満な体重を支えて悲鳴をあげた。
彼氏の部屋は幸いにも1階だ。
このボロボロの階段を登らずに済んで良かった、とアケミは思った。

どこかの部屋からピコピコと電子音が聞こえる。
どこかの部屋から人の話し声?が聞こえる。
どこかの部屋から妙な臭いが漂っている。

蒸し暑い。

彼氏の部屋は廊下の一番奥だ。
そっと扉に顔を近づけ、中の音を伺う。
物音はしない。
目を瞑り、更に意識を集中させる。
微かにモーターの様な音が聞こえるが、これは冷蔵庫か何かだろうか。
平日の真昼間だ。彼氏はきっとバイトか何かで留守にしているに違いない。
そうでなければまだ寝ているのか。

アケミは再び玄関に戻ると、今度はコソコソと建物の裏手へ回った。
体勢を低くしながら、広めだが全く手入れされていない雑草だらけの裏庭を行く。
幸いにも誰にも見られてはいない。
彼氏の部屋の窓。
幸い擦りガラスではないので中は覗けるが、カーテンがひかれている。
どこか覗ける場所は、とアケミを目をやると、2枚のカーテンの中央部が若干空いているのを発見した。
最後に周囲を確認したアケミは、そっと窓に顔を近づけた。

部屋の中は薄暗い、が、まだ昼間と言う事もあり、どこかから明かりが入っているのだろうか、中の様子はどうにか確認する事ができる。
真正面に、誰かが寝ている。
彼氏か、いや、女、か。
物の無い部屋。中央はきっと布団だろう。
そこに、誰か見知らぬ女が寝ている。
しかも、あられもない格好で。

覚悟していたにも拘らず、アケミは全身の血が沸き立つのを感じた。

が、よくよく見てみると、それは、生身の女性ではなかった。
かと言って、知識の中にあるような空気人形というわけでもない。
それはいわゆるアニメのキャラクターがプリントされた、抱き枕であった。
プリントされている女性は艶めかしく裸体を伸ばし、頬を赤らめている。

そうか、生身の女ではなく、非現実の女に負けたのか、とアケミは肩を落とした。
しかし、逆に言えば、まだまだ自分には戦う余地はある、と言い聞かせるように頷く。

と。

(動いた?)
目の錯覚かもしれない。狭い隙間にめをこらしているから、きっと目が疲れたのだ。
(!?)
そんな予想とは裏腹に、良く見れば抱き枕は静かにそして微かに上下運動をしている。
まるで、生きて呼吸しているかのように。

そして次の瞬間、抱き枕はモゴモゴモゴモゴっと動き、のたうった。
同じ姿勢で同じポーズのキャラクターが跳ねる。
その異様な光景にアケミは金縛りにあったように動けなかった。
夢ではない。
だがしかし現実に抱き枕は狂おしくウネっているではないか。
ウネる度に何かが飛び散っている。
枕の羽根ではない、液体?
そう言えば、マクラは全体がしっとりと濡れている。
何故?

やがてマクラは動きを止めた。
だが見守るアケミの前で、本来であれば中に枕本体を入れるためであろうジッパーが、ひとりでにジジジジジと開く。

「むぐっぷぅ」

デロリと粘液を全身に纏い、ヌラヌラと陽光を跳ね返す裸体。
今まさしく、アケミの彼氏は、抱き枕の中からモゾモゾと誕生したのだ。

「あばぁ」

自身の液体でズルリとしながらも、彼氏の全身が現れる。
そしてそのままオギンオギンになっていた股間を、ぬくっちゅうぬくっちゅうと自身の抜け殻である抱き枕カバーに擦り付け始めたではないか。

「あ、あ、あ、なのはママ!なのはママぁぁぁぁっ!」

きっとキャラクターの名前なのだろう。
嬌声を高らかに響かせ、彼氏は股間を激しくグラインドさせる。
それでけでなく、ヌルヌルの全身を上から下まで滑らせ、キャラクターに余すところなく擦り付ける。

蒸し暑い。

ぐねぐねもぞもぞと蠢く肢体。
ぬらぬらと光る肌。
嫌悪感に満ち満ちたソレは既に人ではなく、虫のソレであった。

「ゴミ虫…」
朦朧とする意識の中、アケミはポツリと呟いた。




ラノベ初めて物語 「抱き枕出産ローションプレイの初めて 編」 終
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ども、鷹尾です。
リクエスト小説です。
冗談じゃねーですよ。
久々に書いた文章がこれかよ。
光栄だよ。

ま、そんなワケで。

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Choco追記。
勝手に表紙作った。
そして勝手に記事更新した。

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

No title

文字通り、爆笑した。
期待以上です鷹尾先生!
リクエストに応えていただいてありがとうございました!

と思ってたら、
choco先生のイラストが追加されてまた爆笑した。

最高です!

No title

何か表紙が付いててビックリした。
チョコとコラボしたのは実は初めてか?
心のバージンを捧げた系。

で、元ネタを知らないんだけど、こんな感じで合ってるのか?

No title

>こんな感じで合ってるのか?

全然違うけど元ネタより面白いから良いんじゃないかな。
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