ライトノベル『カウンタアタック! 特撮学園のCGさん』 ‐第1章 その1‐
『カウンタアタック! 特撮学園のCGさん』
‐ 第1章 「あの子の名前はCGさん」 その1 ‐
作:南瓜汁したたり
イラスト:チョコの人
「こ、小村崎唯です。……さ、3ヶ月遅れですが、よよよよろしくお願い致します!」
そんなわけで、高校1年の入学式の登校時間に、いきなり謎の爆発に巻き込まれて入院する羽目になった私は、7月になって初めてクラスメイトの顔を見ることになった。3ヶ月遅れともなると、もはや転校生の気分である。あがり症の私にとっては最悪レベルの注目度での新人デビューである。
無駄にセクシーな担任・四季城薫先生が身体をクネらせ、ウインクしながら言う。
「頑張って授業についてきてねン☆」
「は、ははは……」
入院中に自習はしていたものの、普通以下の女子高生である私にとって、カリキュラムの進行具合の問題は既に死活問題だったりする。
「小村崎さんの席はあそこの空いてる机よン☆ 席がいつまでも空いたままだったから、転校生がいつくるのか、みんなず~っとヤキモキしていたのよン☆」
「“謎空席”って、定番ですもんね……」
みんなからの居心地の悪い視線を感じながら、窓際の1番後ろの席へ向かう。まさに定番位置の席である。
「黒板が遠過ぎて見え辛かったら言ってねン☆」
「は、はい!」
「隣の席の十文字君は、小村崎さんに色々教えてあげてねン☆ 手とり足とり、情・熱・的・に☆ そのあとは、いつものように美味しくいただいちゃっていいからン☆」
「誤解を招くことを言うなよ! 自分の生徒に!」
「てへペロリンガ☆」
今日初めてクラスに来た私にとって、このやりとりは異常に思えるのだが、しんと静まり返っている教室の様子を見るに、既にマンネリ化しているようだ。
「あんな色情教師(四季城先生だけに)はほっといて……ええっと、俺は十文字サトル。よろしく。いたって普通の人なんで、気軽に何でも聞いて」
「う、うん、よろしく……お願いします……」
流れ的に何となく十文字君と目を合わせられなかったが、清潔そうで、勉強も運動も満遍なくこなせそうな、普通のツッコミ担当っぽい雰囲気の好青年だった。社交的っぽいので情報通と思われる。乙女ゲーマーとしては重宝級キャラである。
「(うーん、同じクラスじゃないのかな……)」
私はクラスを見渡して、私を救ってくれたあの少女の姿を捜したが、見つけることは出来なかった。あれから3ヶ月、何としても直接お礼が言いたかったのだ。
「じゃあ、今朝のHRの残りの時間は、プラナリアの生殖方法について解説するわねン☆」
色情教師……否、“色情狂氏”が身体をクネらせた。静まり返っている教室。
「あ、あのー……じ、十文字君」
「ん? さっそく?」
「はは、じ、実は人を捜してるんだけど、こんな女の子知らない? ―――」
◆
休み時間、ひと気の無い階段の踊り場。3人の女子生徒が、1人の男子生徒を取り囲んでいる。リーダーと思しき女子生徒が、デコレーションまみれの腕時計型スマホをチラつかせて言う。
「アタシさぁ、またお小遣いが足りなくなっちゃってぇ……いつもみたいに何とかしてくれなぁい?」
「幾ら?」
「諭吉レンジャーで」
「5万……無い……今月何度目だと思ってるの……」
「コレ、Puritterのアタシの複アカにUPしちゃうけど、い~い?」
腕時計型スマホの画面には、男子生徒が紐で縛られ、陰部を丸出しにさせられて泣いている写真が表示されていた。書き加えられたポップな文字が“I'm gay... fuck me please!”と楽しげに踊っている。女子生徒は、腕時計型スマホのホログラムキーボードを広げ、写真のUP作業を見せつける。
「2万……しかない……」
「ちぇっ。まぁいいや、毎度毎度すまないねぇ! 今夜、音大の大学生と合コンなのぉ」
女子生徒は2万円をむしり取ると、嬉々としてホログラムキーボードをしまった。
取り巻きの女子生徒が、腕時計型スマホの写真を覗き込んでカラカラと笑いながら言う。
「しっかしアンタ、ほんっと小っさいよねぇ! 残りの余生、どうやって生きていくの?」
「ちょっとやめなよ、本当のこと言っちゃ可哀想じゃん!」
「ギャハハハハ!」
男子生徒も、俯いたままハハ、と力なく笑った。
「また頼むね~! 愛してる! ギャハハ!」
女子生徒たちは振り返りもせずに、騒々しく去った。
男子生徒は俯いたまま、力なく蹲る。
その様子を、物陰から何者かが見ていた……。
◆
「お昼休みよぉン☆ あ・そ・ん・で・ネ☆ チュッ☆」
という校内放送を受け、昼休みの鐘が鳴った。
「え、い、今の何!?」
戸惑う私に、すかさず十文字君が解説してくれる。
「ああ、あれは放送部のアイディア。大きな節目の時報前放送だけ、教師が日替わりで担当しているんだよ。教師と生徒の距離を縮めようというコンセプトで、大好評。四季城みたいにキャラが立ってる先生の放送はなかなか人気なんだよ、他のクラスではね……」
「へ、へぇ……」
四季城先生のムンムンボイスによってお通夜ムードと化したうちのクラスを後にして、私は廊下に出た。他のクラスの男子たちが騒いでいる。
「嗚呼、四季城の声、エロいなぁ」
「たまんないよねぇ。いいなぁ四季城が担任のF組は。あれが毎日聞けるんだぜ……!」
「四季城、Fカップらしいぜ!」
「まじかよ! FカップだからF組なのか! 盲点だった!」
確かに、ウンザリしているうちのクラスとは違って、他のクラスでは四季城先生の人気があるようだ。
「(えっと、十文字君情報によると、あの子はB組だったっけ……。そういえばあの子、Bカップくらいだったな……いや、あの子のイメージに合ってて、いいんじゃないかな。……とってもいいよね。凄くいい! ……どうでもいいな……)」
私は雑念を押し殺し、さっきの十文字君との会話を思い出すよう勤めた。
◆
朝のHR中につき、ひそひそ声で話す十文字君。
「ああ、あの子か。……えっと名前は知らないんだけど、俺たちと同学年で、B組だよ」
「そっか、普段どんな子なのかな」
「うーん……あんまり良い噂は聞かないなぁ」
「え! そうなの?」
「クールが過ぎるというか……“冷たい奴”っていう評判だね。友達はいないっぽい」
「そうなんだ……意外……」
「先月もB組でその子関連の事件があったらしいぜ。詳細は何かヤバげだったから調べてないんだけどさ。でも、何でまた?」
「え! いやいや、ちょっとね……」
あの少女の意外な評判を聞いてしまい、動揺すると共に、十文字君の情報通キャラとしての有能性に驚く私であった。すっげ。
「あんまり関わらないほうが良いっぽいぜ?」
「ちょっとソコの2人! HR中よン☆」
登校初日だというのに、さっそく四季城先生に叱られてしまった。
「愛を囁きあうのは放課後になさい☆ 周りのチェリーが興奮しちゃうわよン☆」
「自分の生徒にそういうこと言うなっつの!」
「口答えしたわね? あなたたち、放課後のゴミ捨て当番ねン☆」
「げげっ!」
「ゴミを捨てたら好きになさい。焼却炉のそばは誰も居ない・か・ら・ン☆」
教室は、しんとしていた。
◆
期待半分、恐れ半分。緊張しながら恐る恐るB組の教室を覗いた。
「あ、唯じゃん!」
驚きの笑顔でかけ寄ってきたのは、同じ中学だった藺草カナちゃんだ。

「そっか、今日から登校なんだ! おめでとう!」
「ありがとー! あ、カナ、ちょっと人を捜してるんだけど、長い青白い髪の女の子で……」
「え、CGさん?」
「CG?」
「あぁ、あだ名で……。CGさんは……あそこの席なんだけど……」
カナは、答え辛そうに、ゆっくりと指を指した。
「え……?」
その席の机には花瓶が飾られ、あの少女の髪の色と同じように青白く美しい花が、風にゆっくりと揺れていた。
つづく
‐ 第1章 「あの子の名前はCGさん」 その1 ‐
作:南瓜汁したたり
イラスト:チョコの人
「こ、小村崎唯です。……さ、3ヶ月遅れですが、よよよよろしくお願い致します!」
そんなわけで、高校1年の入学式の登校時間に、いきなり謎の爆発に巻き込まれて入院する羽目になった私は、7月になって初めてクラスメイトの顔を見ることになった。3ヶ月遅れともなると、もはや転校生の気分である。あがり症の私にとっては最悪レベルの注目度での新人デビューである。
無駄にセクシーな担任・四季城薫先生が身体をクネらせ、ウインクしながら言う。
「頑張って授業についてきてねン☆」
「は、ははは……」
入院中に自習はしていたものの、普通以下の女子高生である私にとって、カリキュラムの進行具合の問題は既に死活問題だったりする。
「小村崎さんの席はあそこの空いてる机よン☆ 席がいつまでも空いたままだったから、転校生がいつくるのか、みんなず~っとヤキモキしていたのよン☆」
「“謎空席”って、定番ですもんね……」
みんなからの居心地の悪い視線を感じながら、窓際の1番後ろの席へ向かう。まさに定番位置の席である。
「黒板が遠過ぎて見え辛かったら言ってねン☆」
「は、はい!」
「隣の席の十文字君は、小村崎さんに色々教えてあげてねン☆ 手とり足とり、情・熱・的・に☆ そのあとは、いつものように美味しくいただいちゃっていいからン☆」
「誤解を招くことを言うなよ! 自分の生徒に!」
「てへペロリンガ☆」
今日初めてクラスに来た私にとって、このやりとりは異常に思えるのだが、しんと静まり返っている教室の様子を見るに、既にマンネリ化しているようだ。
「あんな色情教師(四季城先生だけに)はほっといて……ええっと、俺は十文字サトル。よろしく。いたって普通の人なんで、気軽に何でも聞いて」
「う、うん、よろしく……お願いします……」
流れ的に何となく十文字君と目を合わせられなかったが、清潔そうで、勉強も運動も満遍なくこなせそうな、普通のツッコミ担当っぽい雰囲気の好青年だった。社交的っぽいので情報通と思われる。乙女ゲーマーとしては重宝級キャラである。
「(うーん、同じクラスじゃないのかな……)」
私はクラスを見渡して、私を救ってくれたあの少女の姿を捜したが、見つけることは出来なかった。あれから3ヶ月、何としても直接お礼が言いたかったのだ。
「じゃあ、今朝のHRの残りの時間は、プラナリアの生殖方法について解説するわねン☆」
色情教師……否、“色情狂氏”が身体をクネらせた。静まり返っている教室。
「あ、あのー……じ、十文字君」
「ん? さっそく?」
「はは、じ、実は人を捜してるんだけど、こんな女の子知らない? ―――」
◆
休み時間、ひと気の無い階段の踊り場。3人の女子生徒が、1人の男子生徒を取り囲んでいる。リーダーと思しき女子生徒が、デコレーションまみれの腕時計型スマホをチラつかせて言う。
「アタシさぁ、またお小遣いが足りなくなっちゃってぇ……いつもみたいに何とかしてくれなぁい?」
「幾ら?」
「諭吉レンジャーで」
「5万……無い……今月何度目だと思ってるの……」
「コレ、Puritterのアタシの複アカにUPしちゃうけど、い~い?」
腕時計型スマホの画面には、男子生徒が紐で縛られ、陰部を丸出しにさせられて泣いている写真が表示されていた。書き加えられたポップな文字が“I'm gay... fuck me please!”と楽しげに踊っている。女子生徒は、腕時計型スマホのホログラムキーボードを広げ、写真のUP作業を見せつける。
「2万……しかない……」
「ちぇっ。まぁいいや、毎度毎度すまないねぇ! 今夜、音大の大学生と合コンなのぉ」
女子生徒は2万円をむしり取ると、嬉々としてホログラムキーボードをしまった。
取り巻きの女子生徒が、腕時計型スマホの写真を覗き込んでカラカラと笑いながら言う。
「しっかしアンタ、ほんっと小っさいよねぇ! 残りの余生、どうやって生きていくの?」
「ちょっとやめなよ、本当のこと言っちゃ可哀想じゃん!」
「ギャハハハハ!」
男子生徒も、俯いたままハハ、と力なく笑った。
「また頼むね~! 愛してる! ギャハハ!」
女子生徒たちは振り返りもせずに、騒々しく去った。
男子生徒は俯いたまま、力なく蹲る。
その様子を、物陰から何者かが見ていた……。
◆
「お昼休みよぉン☆ あ・そ・ん・で・ネ☆ チュッ☆」
という校内放送を受け、昼休みの鐘が鳴った。
「え、い、今の何!?」
戸惑う私に、すかさず十文字君が解説してくれる。
「ああ、あれは放送部のアイディア。大きな節目の時報前放送だけ、教師が日替わりで担当しているんだよ。教師と生徒の距離を縮めようというコンセプトで、大好評。四季城みたいにキャラが立ってる先生の放送はなかなか人気なんだよ、他のクラスではね……」
「へ、へぇ……」
四季城先生のムンムンボイスによってお通夜ムードと化したうちのクラスを後にして、私は廊下に出た。他のクラスの男子たちが騒いでいる。
「嗚呼、四季城の声、エロいなぁ」
「たまんないよねぇ。いいなぁ四季城が担任のF組は。あれが毎日聞けるんだぜ……!」
「四季城、Fカップらしいぜ!」
「まじかよ! FカップだからF組なのか! 盲点だった!」
確かに、ウンザリしているうちのクラスとは違って、他のクラスでは四季城先生の人気があるようだ。
「(えっと、十文字君情報によると、あの子はB組だったっけ……。そういえばあの子、Bカップくらいだったな……いや、あの子のイメージに合ってて、いいんじゃないかな。……とってもいいよね。凄くいい! ……どうでもいいな……)」
私は雑念を押し殺し、さっきの十文字君との会話を思い出すよう勤めた。
◆
朝のHR中につき、ひそひそ声で話す十文字君。
「ああ、あの子か。……えっと名前は知らないんだけど、俺たちと同学年で、B組だよ」
「そっか、普段どんな子なのかな」
「うーん……あんまり良い噂は聞かないなぁ」
「え! そうなの?」
「クールが過ぎるというか……“冷たい奴”っていう評判だね。友達はいないっぽい」
「そうなんだ……意外……」
「先月もB組でその子関連の事件があったらしいぜ。詳細は何かヤバげだったから調べてないんだけどさ。でも、何でまた?」
「え! いやいや、ちょっとね……」
あの少女の意外な評判を聞いてしまい、動揺すると共に、十文字君の情報通キャラとしての有能性に驚く私であった。すっげ。
「あんまり関わらないほうが良いっぽいぜ?」
「ちょっとソコの2人! HR中よン☆」
登校初日だというのに、さっそく四季城先生に叱られてしまった。
「愛を囁きあうのは放課後になさい☆ 周りのチェリーが興奮しちゃうわよン☆」
「自分の生徒にそういうこと言うなっつの!」
「口答えしたわね? あなたたち、放課後のゴミ捨て当番ねン☆」
「げげっ!」
「ゴミを捨てたら好きになさい。焼却炉のそばは誰も居ない・か・ら・ン☆」
教室は、しんとしていた。
◆
期待半分、恐れ半分。緊張しながら恐る恐るB組の教室を覗いた。
「あ、唯じゃん!」
驚きの笑顔でかけ寄ってきたのは、同じ中学だった藺草カナちゃんだ。

「そっか、今日から登校なんだ! おめでとう!」
「ありがとー! あ、カナ、ちょっと人を捜してるんだけど、長い青白い髪の女の子で……」
「え、CGさん?」
「CG?」
「あぁ、あだ名で……。CGさんは……あそこの席なんだけど……」
カナは、答え辛そうに、ゆっくりと指を指した。
「え……?」
その席の机には花瓶が飾られ、あの少女の髪の色と同じように青白く美しい花が、風にゆっくりと揺れていた。
つづく