蠱毒のグルメ ~ラーメン一蘭 編~

深夜。
都内某所。

その日、大口の受注家との飲み会を終えた男は空腹を感じていた。
いくら9割方決まった話し合いの慰労を兼ねた無礼講の席とは言え、お客様の前で醜態を晒すわけにもいかず、
食事も酒もほどほどに、あくまでお客様のグラスが空にならない事に全神経を集中させた結果だ。
とは言え、ある程度飲食はしている。
この空腹は仕事を一つやりきった興奮からのものでもあろう。

「〆に、ラーメン食べたいな」

ポツリとこぼれる。
言ってしまえば後はただひたすらに食べたくなる。
男は既に上司とも部下とも別れ一人であった。
深夜のラーメン店はこの男のような思考で、客の大半は1杯やった後。
今の気分にそんな喧騒は神経を逆撫でするだけだ。
かと言って、客入りの少ないラーメン店に行く気も起らず。
男は丁度良い妥協点を探そうと、やや酔った頭をフル回転させた。

「ああ、そう言えばこの先に『おひとり様用』のラーメン店があったな」

その店の名は『一蘭』。
カウンター席を個々にパーティションで区切り、客が味に集中できるように配慮した、
実に画期的なコンセプトを打ち出したとんこつラーメン専門店である。
ここであれば自分と同じような一人客で、店内は実に落ち着いたものだろう。
男は意気揚々と店に向かった。

「いらっしゃいませ~」
店の自動ドアを入ると元気の良い女性店員が男を出迎えた。
「おひとり様ですか?」
「あ、はい」
そりゃそうだろう、と心で舌打ちしつつ顔を店員から外した瞬間、
男の目に飛び込んできたのは広大なテーブル席エリアであった。
(え、おひとり様専用ちゃうんかい)
思わず大阪弁になるレベルで驚いた。
更に恐れていた様に、既に出来上がったサラリーマン達が熱いラーメンと熱い下ネタでテーブル席を埋めている。
「こちらでまず食券をお求め下さい」
もう逃げられない状況下で、混乱したまま男は店員に言われるがまま食券のボタンを押した。
「ではご案内いたします」
言うや否や店員がテーブル席とは違う方向へスタスタ歩いてゆく。
まだ食券が指先でツルツルしていた男は慌ててその後を追う。
(何だ、テーブル席とは違うエリアにおひとり様席があるのか)
予感の通り、テーブル席の喧騒が薄くなった区画に以前テレビで紹介されていた通りのカウンターがズラリと並んでいた。
「では奥から2番目の席ご利用下さい」
店員に言われるがまま、人一人しか通れない通路よりに席に着く。

席は肩幅よりやや広い程度。
確かに両隣の客への意識は下がるが、圧迫感が強い。
両脇は板だが、目の前はすだれ、と言うか御簾だ。奥は見えない。
男はまず目の前に置かれたオーダー用紙なるものに目を落とした。
成る程。麺の硬さや味の濃さなどをあらかじめ紙に記入し、それを食券と一緒に出す方法らしい。

何か、面倒だな…。

とも思ったが、とりあえず初めての店なので全部『普通』に記入し待つ。
しばらくして、店員を呼ぶボタンを押さないといけないことに気付いた。
押す。と、
「はいお伺いいたしま~す」
威勢の良い店員の声と共に、目の前の御簾がシュルリと上がった事に男はビクッとなった。
店員が食券とオーダー用紙を確認する。
「はい、しばらくお待ちください」
御簾がシャッと下りる。店員は強面だった。

「新規ご注文いただきましたー」
『ウェィッ!』

どうやら男の席は厨房のほぼ真横らしく、そう言えば先ほどから若者の元気の良い声が聞こえている。
前は御簾。
両脇は壁。
男はメニューなどをためつすがめつしながら待った。
それ以外、出来ることが無かった。

「お待たせしました~」
御簾が上がり、ラーメンが運ばれてきた。
「ごゆっくりどうぞ」
御簾が下がる。

ラーメンは非常にシンプルなとんこつ。
麺、ねぎ、チャーシュー、のみ。
「きくらげは別料金なのか」
大好物が乗っておらず、男は少々ガッカリした。
まずは一口。
「うん。普通だ」
最近はチャッチャ系やドロ系などのこってり味が好まれる中、実にクセのない味であった。
チェーン店が故にたどり着いた、『万人が不満を言わなそうな味』なのであろう。
具も少なくズルズル食べられる。
美味い、とは言わない。しかして、不味い、とも言えない。実に巧妙な味である。

しかし。

「麺固入ります」
『ウェイ!』
「チャーシューもっと切って」
『ウェイ!』
「ねぇ、この間の店また行こうよ~」
『ウェイ!』
「ちょマジやめろってー、熱いからさぁ」
『ウェイ!』
「あーやべー、超お前面白いつーの」
『ウェイ!』



厨房うるせぇぇぇぇぇぇっ!
コッチぁおひとり様なんだよ。
強いて言うなら寂しい人達なんだよ!
なのに何でお前らの仲良しトークが
ノンストップで耳に入ってくるんだっつーの。
味に集中させろやぁぁぁぁぁっ!





男は結局、普段なら頼まないライスを残りスープにぶち込んでかっ食らった。
追加オーダー出したら一瞬静まるかな?
とか考えていたが、無論、そんなことは無かった。
どんぶりの底に書かれた文字が、涙でちょっと歪んだ。

「ありがとうございましたー」
相変わらず盛り上がっているテーブル席を尻目に、男は店を後にした。
ネクタイを緩める。


「ま、結局ラーメンは日高屋だな!」


<それでも人生と言う名の冒険は続く>

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